中国の対香港政策

香港基本法

1997年7月1日は、ふたを開けてみれば平和な一日だった。反対派による抗議等も想定されたが、イギリスから中国への権限移譲の式典は何事もなく行われた。

香港の政治を語るうえでまず参照しなければならないのは、香港における憲法に相当する香港基本法である。中国が制定した中国国内法であるため、解釈権は中国が有する。

記載されている主な項目は次の通り。

第1条 香港は中国の不可分の一部である

第2条 高度な自治、立法権、司法権と終審権

第5条 返還後50年間は従来の資本主義制度を変えない

第8条 コモン・ローなど従来の法律を保持

第13条 中国が香港についての外交を管理する

第14条 中国が香港の防衛を担う

第15条 中国が行政長官や高官の任命権を持つ

第23条 国家分裂や反乱を取り締まる法律を制定しなければならない

第136条 従来の教育制度の維持

第158条 中国が基本法の解釈権を持つ

第159条 中国が基本法の改正権を持つ


国家安全条例

香港基本法第23条には、国家分裂や反乱を禁ずる法律を香港が自ら定めなければならないと示されている。これに基づき2002年に董建華(とうけんか)行政長官が制定に着手する。すると市民生活を容易に弾圧する治安立法としてその危険性の認識が市民に広がり、中国政府の隠ぺいによるSARSの流行や景気低迷の不満と相まって、返還6周年の2003年7月1日には50万人がデモへ参加し香港政府と中国政府に大きな衝撃を与えた。香港政府は国家安全条例の制定を撤回したが、現在ではキャリー・ラム(2017年~行政長官)などの発言によると必ずしも一本の法律として制定させなくともそれぞれの法律の中で読み込めばよいとの方針と見られている。

経済政策

返還後、アジア通貨危機やSARSの流行等により経済的に落ち込んだ香港に対し、中国政府は積極的に介入する方向へ舵を取った。2003年には経済貿易協定を結び、ビザ要件も緩和した。これにより香港経済は持ち直し、対中感情も好転したが、香港が中国への従属を強めるという香港社会に親中派・反中派の分断の遠因ともなった。


大陸からの流入者(移民・日帰り)

中国大陸居住者に対してのビザが緩和されると、日帰りで香港へやってきて商品を購入し大陸で転売するイナゴと呼ばれる人たちや、香港の社会福祉や教育、一人っ子政策から逃れることなどを目的とした妊婦など、中国大陸から大量の人が押し寄せた。

これらの人はマナーや価値観もそれぞれで、香港人との間に摩擦を生みだした。また税金が中国大陸からの移民に使われているという不公平感も高まった。特に公営住宅の抽選においては、香港内に資産を持たないとして中国大陸からの移民が優遇される。


不動産価格

これまでの香港では若いうちに住宅などの不動産を購入すると、不動産価格の高騰により将来的にそれが資産上昇に繋がる流れがあった。ところが大陸からの人口流入による供給不足と、一定の条件を満たす外国人に不動産投資を開放したことにより、事実上の中国大陸からの投機マネーが香港の不動産へ降り注いだ。エコノミスト誌の調査では2009年に前年比27.7%の世界一の上昇を記録している。当然不動産価格の高騰はインフレを引き起こした。ここにきて大陸からやってくる富裕層等はさらに富を蓄積し、そこから一般の香港市民は排除されより貧しくなるという構図が定着した。

また小規模な店舗がテナント料を払えなくなり退去するという事態も続出した。その後には中国大陸からの客を相手とした宝石店・時計店・化粧品店・ドラッグストア等が入り、香港の街の様子は一変した。複数の調査によると香港の繁華街にて店舗数を集計すると実に6~7割が上記の大陸客向けの店舗で占められているという結果も出ている。


愛国教育


選挙制度

香港基本法には2007年までの選挙制度についての規定があるが、その後については規定がない。最終目標は普通選挙と規定があるので、そこに向かって順次進めていくこととなる。これに対し中国政府は2004年に基本法の解釈を発表し、そもそもの選挙制度改革の必要有無を全人代常務委が判断するとした。これにより2007年の行政長官選挙および2008年の立法会選挙において普通選挙を実施しないことが決定された。

2007年になると全人代常務委は2017年の行政長官選挙を普通選挙としても良いと発表する。しかしここには行政長官選挙に立候補できる人を決定する指名委員会の問題が隠されていた。指名委員会の存在により親中派のみが立候補できる選挙となる可能性があった。これに対し一定数の市民の署名を集めれば立候補できる制度を民主派が提示する。これは国際人権B規約第25条に基づくものである。ここにおいて議論は普通選挙の早期実現から真の普通選挙とは何かに移った。

2013年、香港大学法学部の戴耀廷(ベニー・タイ)副教授がオキュパイ・セントラル(※別記事参照)を提案。これに対し中国政府も態度を硬化。中国へ反対的なものは立候補ができないと具体名を挙げて発表するとともに、2014年6月には「一国二制度白書」を出し、香港に対する中国の掌握を明確にした。そして8月31日に全人代常務委は2017年行政長官選挙は普通選挙とするが、立候補はこれまでと同様に指名委員会の過半数の承認が必要とする、事実上の民主派排除を決定した。


HK is NOT China.com / 香港の民主化運動:雨傘、普通選挙、そして自決

香港の民主派、独立派、自決派とよばれる若者を中心とした動きを解説します。雨傘運動は世界的に大きな注目を集めましたが、成果なく終わりました。その後雨傘運動の中心であった学生たちは議会へ戦いの場を移し、実際に当選者を多数輩出しましたが、そこで待ち受けていたのも中国の圧倒的な力でした。こうした中で広がる無力感や、日本のメディアでは民主派とひとくくりにされてしまい正確に伝わらない状況などを伝えます。

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